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FD3Sは停まったまま、中のドライバーは降りようともせず。どうやら中で様子を見ているようだった。しかし、龍と貴志がやってくるのを見てそのままという訳にもいかなくなったようだ。
ドアが開いて、ドライバーが降りる。
その降りたドライバーを見て、みんなあっけにとられてしまった。
龍も貴志も智之ら走り屋仲間達も。
「お、女……」
皆意外な展開に驚き戸惑っている。
あのモンスターマシンを操っていたのは女だったのだ。
しかも結構若いときたもんだ。
ちょうど、少女から大人の女性へと移りゆく間くらいの年齢だろうか。車に若葉マークが無いのを見ると、少なくとも19以上なのは間違いない。
女としては背はやや高めで。髪型はショートカットで。澄んだ黒い瞳の、落ち着き払った目。整った端正な顔立ちからスマートな印象を受ける。が、全身グレイの服を身にまとっていて、そのせいかどことなく金属的な堅さと、冷たさをも思わせる。
戸惑いつつも、龍はその女に話しかけ。貴志は隣にいて様子を見ている。
仲間達は成り行きを見守っている。
龍は一息ついて、その女に言った。
「あんた、ここじゃ見かけない顔だな」
さっきのことでまだ興奮は冷めていなくて、息が荒っぽい。はたから見ればその女に興奮しているような滑稽さを思わせたが、もちろんそんなわけはない。
目は鋭く女を見据えている。
その目を見て、女が龍に応えた。
「ええ、ここは初めて走るから」
凛とした、澄んだ声だった。毅然とした態度、龍や貴志に対して別に悪びれる様子も無い。
「私は香澄……、一条香澄(いちじょうかすみ)っていうわ。あなたたちの名はなんていうの?」
女が名乗ると二人は少しの間顔を見合わせ。
「オレは源龍」
「オレは井原貴志」
2人は香澄に負けじと、なるべく毅然とした態度で名乗った。
「私のことは香澄でいいわ」
「オレも、龍でいい」
「龍に同じく、貴志でいいよ」
3人のやりとりに、重い空気があたりを包む。すると毅然とした態度そのまま、香澄は言った。
「ここを走るのは初めてなんだけど、走ってたのはあなた達二人だけ? 他の人は走っていないの?」
まるでさっきの追いかけっこなどなかったかのよな言いぐさだ。
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