scene1 遭遇

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 20世紀最後の桜が咲くころ。  色づいた桜の花たちは咲き誇り、山々を彩って。その彩りは今は静寂と夜闇に覆われて、闇の中へと沈んでいる。  その夜は月も出ず、まさに漆黒の闇が世界を覆うような夜だった。  その山々の間を縫うように、道が走り。その道も静寂と夜闇に覆われていた。  その静寂を破りながら、夜闇を切り開く光が、山々を縫う道を駆けている。  それは2台の車。  1台は漆黒の闇に溶け込むような黒。それが自らの光で夜闇を切り開いて道を照らし、獣のように雄叫びを上げて静寂を打ち破って。その後ろに、青い車。  前の黒い、MR2(SW20)のドライバー、源龍(みなもとりゅう)は黒い瞳で一瞬ルームミラーをのぞいて後方の、RX-7(FC3S)を睨んだ。 「くそ、速いじゃないか」  RX-7をドライブする井原貴志はブラウンの瞳でMR2のテールを睨みながらつぶやく。  龍の黒い瞳は夜闇切り開く光の先を見据えていた。足にフィットするコンバースのハイカットでアクセルを踏み、マシンを加速させる。  ふと、光の中に、ひとひらの桜の花びらが舞うのが見えた。マシンの鼓動が揺らす空(くう)に揺られて木から落ちたのだろうか。
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