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その桜の花びらに向かって突っ込むように、龍はマシンを走らせれば。花びらは驚いたように、風に乗ってMR2のルーフを飛び越して。後ろのRX-7、貴志の視界に入り込み。
貴志もまた桜の花に突っ込むようにしてマシンを駆り、MR2を追い。花びらはRX-7のルーフを飛び越して、ゆるりとアスファルトに落ちて、夜闇に溶かされた。
2台のマシンはワインディングロードを駆け抜け。上に下に、右に左に、めまぐるしい変化を見せる道路状況にも関わらず、マシンを操り。ヘッドライトの光が切り開く夜闇の向こうへと突っ込んでゆく。
そのワインディングロードの名を、三国(さんごく)スカイラインといい。
東西に走るその道の長さ全長およそ20キロ。山々の間を縫うようにつくられたその道は、太陽の昇る時間には美しい景色を見せて人の心を和ませる。
しかし、太陽が沈んで夜闇に覆われた時、スカイラインの様相は一変する。
陽が沈みゆくとともに人々がスカイラインから去ってゆくのと入れ違いに、どこからともなく車たちがやってきて、集まって。そこに車の世界があらわれる。
車たちはスカイラインの各所に散らばって、駆け抜けてゆくMR2とRX-7を見送る。
東西の駐車場ともなれば10台を越す車たちが集まり。獣がさえずるようなアイドリング音を低く響かせる。その一方で、トランクに搭載されたでかいウーファーが震えながら大音響で音楽を奏でて。それに身をゆだねて身体で拍子をとって揺れている男女の姿もあった。
夜の三国スカイライン。そこは常人の世界とは一線を画する、夜闇の中にあらわれるアンダーグラウンドの世界。
東の駐車場に車たちと、そのドライバーたちがたむろするのと同じように西の駐車場も車たちとそのドライバーたちがたむろし。
ひとりが携帯電話片手に、
「龍が前、貴志は後ろ!」
と言った。
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