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で、それが悔しくて、つい無理をしてしまって。クラッシュ。Γは一発廃車という羽目に。
幸い身体は無事だったものの、
「やってらんねーよ」
とふてくされて、やけくそになっていたところ、悪友とも言うべき智之に、
「まあまあ、バイクがダメなら四輪で走ってみねーか?」
とのそそのかしに乗って、四輪に転向し、RX-7を愛機にした次第。
それからセンスなのかどうなのか、とにもかくにも貴志はメキメキと頭角を現し。ついには最速の龍のMR2についていけるまでになった。
龍の方でも貴志を見込んだようで、
「よう」
と話しかけられて以来、龍、貴志、と呼び合う仲にまでなった。
「お前、最速の座を奪い取れるかもしれねーんだぞ。バイクでの悔しい思いを晴らす絶好のチャンスじゃねーか」
「あー……」
夜空を見上げながら、貴志は考え込んでいた。そんな貴志を智之は突っついた。そこへ、ひととおり走り終えた龍のMR2が、タイミングよく来たものだった。
ふたりを見て、車から降りながら、
「もう走らねーのか?」
と言うや。智之は嬉々として龍にすりよった。
「お、いいところに来た。龍、貴志がお前とバトルしたいってよ!」
「バトルぅ?」
「そそ。お前と最速の座を懸けて勝負してえってよ」
「うん、まあ。……え? おい智之、お前何を勝手なこと言ってんだ!」
かたわらで聞いていた貴志ははっとして言うが、気がつけば龍の鋭い視線が飛んでいた。
「あー……。龍」
「いいぜ、オレは」
龍は愛機のフェンダーに軽く腰掛けて腕を組み、不敵な笑みを浮かべている。
(あーもう、智之のやつ)
貴志は眉をひそめて智之を睨んだ。が、もう逃れられそうになかった。正直、自身にどのくらいのポテンシャルがあるのか未知数で、自信はあまりなかった。
「いいじゃねえか。バトルしようぜ」
龍は不敵な面構えになって、貴志を、その愛機のRX-7を見据えていた。
「まあ、オレも手ごろな相手がいなくて、退屈してたんだ。お前が相手なら、楽しいバトルになりそうだな」
立ち上がって貴志のもとまでゆくと、握り拳でその胸を軽く叩いた。
「んー……。仕方がねえなあ、もう」
貴志もあきらめて苦笑いし、自分の拳を龍の拳に軽くぶつけたのだった。
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