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「あれ?」
智之らは耳を済ませた。
(何か来ている)
「おい、何か聞こえないか?」
「ん?」
智之の言葉に周囲の連中は耳を済ませる。
「まさか、おまわりか?」
その言葉を聞いて、ほかの誰かが顔を引きつらせた。
走り屋の集まるワインディングには、それを取り締まる警察の巡回がつきものなのだ。実際この中に、警察に説教されたやつもいる。それだけならまだしも、逮捕されて、さらに下手すりゃ翌日の新聞に名前と年齢が出ることにもなる。
今行われていることは、そういうことなのだ。
「いや、おまわりじゃねえな」
智之がそう言うと、顔を引きつらせていたやつが、ほっとして胸をなでおろした。
「なんか、ハンパねえ音じゃね? なんつーのかな、F1みてーな」
その咆哮は徐々に大きくなってゆく。甲高く夜空を、夜闇を震わせるような、雄叫びだった。
「F1? なんだそりゃ」
「ってことは、誰か他の走り屋が来ているってことか?」
「そうかも……」
「おいおい、まずいぜそりゃ。今、龍と貴志のバトルの真っ最中だってのに」
そうこうしているうちに、智之の言う音が皆の耳にも聞こえるようになってきた。
甲高いエグゾーストノート、タイヤのきしみ音。
それはだんだんと、少しずつ大きくなってゆく。
三国スカイラインの西側方向、龍と貴志が来ている反対側から。
このままでは龍と貴志とすれ違うのは必至だった。
「ほんとだ、誰か来ている」
「ヨソのやつかな?」
今度は音がはっきり聞こえるようになって、一抹の不安を感じずにいられなかった。
今夜、龍と貴志がバトルをするから、その間は走らないでくれと。三国スカイラインに集まった走り屋全員に伝えて了承は得ているのだが。
時折ヨソの峠を走っている走り屋が、ひょっこりやってくる時もある。そんなヨソの走り屋にまで、そのことを伝えきれるわけも無く。
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