494人が本棚に入れています
本棚に追加
「人に仕事振るのも大事な事だから。
苦手な部分も克服しないとね?」
そう言いながら嶋野さんは木崎さんを見た。
木崎さんは視線を伏せたまま右から左に話を聴き流している様で、なんの反応も示さずパイプファイルの資料を眺めていた。
「羽山」
「はい」
木崎さんが自分を呼んだ。
「今、国立大学の新校舎建設の物件があるんだけど」
「はい」
「電子入札の仕方教えるから」
「はい」
電子入札の出来るパソコンは限定されていて、ICカードが必要になる。
デスクから離れて専用PCへ向かう。
「羽山にはちゃんと教えるから、心配しないで」
木崎さんがいつもと変わらないトーンで言った。
「……」
「うちの会社異動多いから。
来年私がここにいるか分からないから羽山には全部引き継ぐつもり」
木崎さんは表情も変えずそう言ってから自分の目を見た。
髪同様、瞳の色も薄茶色で瞳孔の黒がはっきり見える。
「はい」
公共事業の仕事は他部署に比べて利益率が低い。
受注率や売上は他部署に引けを取らなくても利益ではいつも中位くらいだ。
サブコンが、公共事業を受注しない方針を取って業績を伸ばしている実情で大手ゼネコンがそれをしてしまったら……この業界は崩壊する。
最初のコメントを投稿しよう!