第1話

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それは3月の事だった。 人事異動の内示が発表され4月からメンバーが変わる事を知らされる。 「あ、ここに来るの同期です」 隣の小川が画面を指しながら私を見る。 「人の異動より自分の事大丈夫?」 小川は新入社員の時から教えていた後輩で、彼もまた今回の異動でここを去る。 「引継ぎって羽山にすればいいんですか?」 「まぁ、多分そうなるね」 ディスプレイを見つめたままそう言うと 「木崎さん冷たいっすね。 一番弟子が居なくなるのに」 小川が沈んだ声を出した。 若い内は他部所に二、三年で異動になるのはこの会社の通例の事。 「弟子を取った覚えは無い」 そう言い切れば 「木崎さーん」 小川は情けない声を上げた。 小川は人懐こい。 私にはそれが鬱陶しい時もある。 態度が冷たくても何故か彼は私に敬意を示している。 まるで犬みたいだ。 私は眉を下げた小川に顔を向けた。 「ねぇ、羽山ってどんな子」
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