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その人の事は良く同期から聞いていた。
小川は誰とでもすぐに打ち解けられる奴で、余り他人と関わり合いを持ちたくない自分にも平気で寄って来るやつだった。
素直で良いやつだって分かるから、小川に誘われればいけるときは同期の飲み会にも顔を出した。
小川のいる部署は社内でも忙しいと有名で、官庁関係の契約を行う部署だから他部署よりも神経を使うらしい。
会う度に小川の口からその人の名前が出る。
「木崎さんマジかっこいい」
「めっちゃ仕事が出来るんだよ」
「マジ尊敬する」
「俺も木崎さんみたいになりたい」
それはもう憧れの眼差しで話すから、そういう人に出会えていいね、程度に思っていた。
「木崎さんのあだ名しってる?」
「知らないよ。見た事も無いし」
俺のいる海外事業部は新宿にあり、小川のいる営業部は品川の本社ビルにあるから社内でばったり会う事は殆ど無い。
「おきさき様って呼ばれてるんだよ」
「…………へぇ」
そんな風に呼ばれても嬉しく無いだろうな。
そう思っていたけど、小川はしっぽを振った犬の様でその人がなんて呼ばれていようが敬愛している事に変わりは無いらしい。
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