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「治ったとは言えないな。迂闊に発火して誰かを燃やしてしまうかもしれない危険性は、まだ残ってるから」
大介は己の右腕に目を落とす。白い包帯を見て思い出すのは、幼少の頃の忌々しき記憶。
「……発火?」
「ああ。俺の言技は“飛んで火に入る夏の虫”。ランクは“桜ノ上”だ。俺の体は危険に飛び込むことで発火してしまう。子供の時、いじめられていた女の子を助けに飛び込んだ時に初めて発現して、俺は自分の右手と女の子の顔半分を燃やしてしまった」
語られる大介の過去に、優花は黙って耳を傾ける。
「でも、その女の子とは仲直りができた。複言のおかげでその子を今度はきちんと守り通すことができた。俺みたいなのを受け入れてくれる友達もできた。だから優花さんも」
「アンタはいいね。謝ることができて」
突如として割って入るぶっきらぼうな言葉。それを発した張本人である優花は、触れれば崩れてしまいそうなほどに儚く悲しい笑顔を浮かべていた。
「私は謝れないよ」
「そんなことないって! 勇気を出せば」
「できないのよっ!」優花が声を荒げる。「死人にどうやって謝れって言うの?」
◇
園山優花の言技が初めて発現したのは、九歳の冬であったという。
優しい両親に高校生の姉。ごくありふれた幸せな家庭を悲劇が襲ったのは、クリスマスを間近に控えたある日の事であった。
朝目覚めると――隣で眠っていた両親が、体中穴だらけになり死んでいた。
誰かが侵入した形跡はなく、その奇妙な死に方から言技が原因である可能性が浮かび上がる。第一に疑われたのは、家族である優花と姉であった。――そして、優花が犯人と断定された。
言技“薔薇に棘あり”。
就寝時に発現し、優花を愛している者をその愛が強い者から順に巨大な棘で串刺しにする。見抜かれたそのおぞましき言技には“桜ノ中”の烙印が押された。
そんな能力を知っても尚優花に優しく接しようとする者など、いるはずもなかった。その行動が愛と見なされれば、次の対象は自分になるかもしれないのだから。
ただ一人、それでも彼女の側を離れなかった者がいた。優花の姉である。
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