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「あっ、見えましたよハンバーガーショップ! 待ってておくれマイハニー!」
一人駆け出した馬鹿彼氏を、雨合羽探偵が追う。残された大介は、駆け出すことなく徒歩で目的地へと向かった。
内心では、できる限りハンバーガーショップには行きたくないのである。そこには、先程電話で険悪なムードになったシャギーがいるから。
入店するなり店員の営業スマイルを完全無視し、血眼で店内へ目を配らせる節沢。その瞳が一人の女性を捕らえるなり、彼は大声を上げた。
「優花(ユウカ)!」
気づいた彼女は座席から立ち上がり、節沢を見つけるなり大粒の涙をこぼす。
「一さんっ!」
駆け出した二人は、店内でキツく抱きしめ合う。さながらドラマのワンシーンでもあるかのような情熱的なハグに、店内では拍手が沸き起こった。遅れて入店した大介は、その光景を目の当たりにして呆気にとられている。
そんな周囲の状況などお構いなしに、二人は二人だけの世界に入っていた。
「好き好きハニー、アイラブユー」
「愛しのダーリン、王子様」
「可愛い優花、ボクのもの」
「私の一、世界一」
「お前ら黙れ。ぶち殺すぞ」
ここで芦長十一(二十九歳独身・彼女なし)がキレた。二人を空いている席にねじ込むと、彼女を保護したシャギー達の元へと向かう。
「ご苦労だったなお前ら。助かったぞ」
「困った時はお互い様さ。お互い様だ。お互い様ですよ。では、僕達は失礼するよ」
シャギーは立ち上がり席を離れ、顔を強ばらせてる大介へと近づいていく。正面まで来ると、そこで一度立ち止まった。
「僕らにここにいられると困るんだろう?」
確かにそうであった。彼らがいたのでは、護衛の話し合いができないからだ。
「あぁ。すまん」
「いいんだ。いいとも。いいですよ。精々頑張ってくれ、彼氏君」
大介が優花の彼氏だと名乗った嘘など、先程の大胆なハグで完璧にバレている。それを理解した上でのシャギーの言葉に、大介は怒りを覚えた。
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