―其ノ弐― #2

12/18
158人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「あっ、見えましたよハンバーガーショップ! 待ってておくれマイハニー!」  一人駆け出した馬鹿彼氏を、雨合羽探偵が追う。残された大介は、駆け出すことなく徒歩で目的地へと向かった。  内心では、できる限りハンバーガーショップには行きたくないのである。そこには、先程電話で険悪なムードになったシャギーがいるから。  入店するなり店員の営業スマイルを完全無視し、血眼で店内へ目を配らせる節沢。その瞳が一人の女性を捕らえるなり、彼は大声を上げた。 「優花(ユウカ)!」  気づいた彼女は座席から立ち上がり、節沢を見つけるなり大粒の涙をこぼす。 「一さんっ!」  駆け出した二人は、店内でキツく抱きしめ合う。さながらドラマのワンシーンでもあるかのような情熱的なハグに、店内では拍手が沸き起こった。遅れて入店した大介は、その光景を目の当たりにして呆気にとられている。  そんな周囲の状況などお構いなしに、二人は二人だけの世界に入っていた。 「好き好きハニー、アイラブユー」 「愛しのダーリン、王子様」 「可愛い優花、ボクのもの」 「私の一、世界一」 「お前ら黙れ。ぶち殺すぞ」  ここで芦長十一(二十九歳独身・彼女なし)がキレた。二人を空いている席にねじ込むと、彼女を保護したシャギー達の元へと向かう。 「ご苦労だったなお前ら。助かったぞ」 「困った時はお互い様さ。お互い様だ。お互い様ですよ。では、僕達は失礼するよ」  シャギーは立ち上がり席を離れ、顔を強ばらせてる大介へと近づいていく。正面まで来ると、そこで一度立ち止まった。 「僕らにここにいられると困るんだろう?」  確かにそうであった。彼らがいたのでは、護衛の話し合いができないからだ。 「あぁ。すまん」 「いいんだ。いいとも。いいですよ。精々頑張ってくれ、彼氏君」  大介が優花の彼氏だと名乗った嘘など、先程の大胆なハグで完璧にバレている。それを理解した上でのシャギーの言葉に、大介は怒りを覚えた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!