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拳が巨体に似つかわしくない情けない言葉を吐き、小刻みに震える。
「ちょっと待ちなさいよ」と、彼女。「何で私がさっきの偽彼氏に引き渡されなきゃいけないわけ?」
「その偽彼氏である瀬野大介君が、アナタのボディーガードなんだよ」
「え? そっ、そうなの?」
彼女は首を捻り、理将と拳に意見を求める。
「シャギーっちがどうやってその結論に行き着いたのかは知らねーけど、とりあえず瀬野っちといれば安心だね」
「ああ。あんな西洋甲冑には負けんだろうな!」
友人を褒める二人。安全性が高まるのなら拒否する理由もないので、彼女も場所移動と大介との合流に同意した。
「では、早速行こうか。行こうよ。行こうとも」
「あ、ウォレその前にトイレ」
「俺もメイク直すわ。雨で落ちちまったよ」
「じゃあ、表で待っているからすぐに来てくれよ」
トイレへと消えていく巨体男とギャル男を見送り、シャギーと彼女はゲームセンターの外へと出た。
◇
「剣岳君には、何かお礼しないといけませんね」
フフッと笑い声を漏らしながら独り言を呟き、照子は一人帰路を進む。愛用の水色傘で梅雨の雨粒を弾き、上機嫌で歩を進めていた。
手提げ鞄には、天吾のおかげで無事に完成したシャギーへのラブレターが入っている。直接面と向かって告白では、照子は恥ずかしさのあまりに間違いなくシャギーを穴に落としてしまう。
しかし、ラブレターならば必ずしも直接渡す必要はない。無難に下駄箱へ忍ばせるもよし、友達に渡すのを頼むもよし。恥ずかしがり屋な照子でも、何とかできそうな告白方法である。
「手紙書くのに使ったこのペンまで頂いてしまいましたし、近々クッキーでも焼いて持っていきましょう」
天吾に貰った黄緑色のペンを手に、照子は微笑む。流石は新聞部なだけあり、天吾は文房具選びが上手かった。照子が持つペンも元は天吾の物なのだが、書き味を褒めたところ譲ってくれたのだ。
何でもペンはいつも大量に持ち歩いているそうで、照子のみならずその場にいた女子全員に好きなペンをプレゼントしていた。どうやら、ペン集めが天吾の趣味らしい。
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