―其ノ弐― #2

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 村雲照子の人生において、異性への告白は今回が人生初。明日のことを考えただけで心臓は跳ね上がり、汗が滲み、喉が乾き、うっかり言技を発現しそうになる。  それでも、告白を辞めるという選択肢は思い浮かばなかった。好きだから。伝えないままではいられないから。恋とは、そういうものである。  しかし、浮かばなかったはずの“辞める”という選択肢は、突如として彼女の頭の中へ割り込んできた。――ゲームセンターの前にいるシャギーと、その隣に立つ美女を見た時に。  照子は足を止め、二人を呆然と眺めている。シャギーは自分の傘を広げ、美女に入るよう促していた。それはまるで、カップルのように照子の目には映る。  自分は一人で何を浮かれていたのか。告白できるだけで喜んでいるなんて、馬鹿馬鹿しい。フラれる可能性だって十分にある。シャギーに彼女がいる可能性も、また然り。  お気に入りの水色傘を放り出して、照子はその場から逃げ出した。容赦なく降りしきる雨が、彼女の体を冷やしていく。でも今は、それが有り難かった。  涙を誤魔化してくれる梅雨の雨に、心から感謝した。  ◇  理将からの電話で三丁目のハンバーガーショップでの合流を承諾した大介は、先に探偵達と合流するため最終手段としてきずなへ電話をかけた。  案の定「あしながおじさんに何の用事なのー?」としつこく尋ねられたが、そこは今度甘いものを奢るという条件で詮索しないことにしてもらった。  芦長を通じて節沢とも繋がり、三人は無事合流。そして今、ハンバーガーショップへと向かっている。 「何をのんびりしているんですか二人共! 走りましょう!」 「大丈夫。彼女さんに怪我はないらしいから」  急かす依頼人を宥め、大介は通常の速度で歩を進める。隣を歩く芦長は、何故か雨合羽を着ていた。 「……何で傘じゃねーの?」 「いやな、俺は傘を盗まれたから、傘を買うと負けた気分になる。だが、雨合羽を買うなら話は別だ。俺は傘が盗まれたうんぬんとは関係なく、雨合羽が欲しいから買った。負けにはならない」 「よかったね」  物凄くどうでもいい持論だったので、大介は早々に話を打ち切った。何にせよ、これでもう相合い傘をしなくてよいので大介にとっては有り難いことである。
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