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「それは野宿ってことか?」
「というか、お前眠る気だったのか? 一番危険な夜中に護衛が眠ってどうするんだアホめ」
言われてみれば、ごもっともである。いきなりの徹夜決定に、大介は肩を落とした。
「そういうわけなんで、よろしく頼むよ瀬野君。探偵さんも」
「よろしくお願いします」
節沢が玄関でひらひらと手を振り、その後ろで優花がペコリと頭を下げる。今更断ることなど勿論できない大介は、渋々了承した。
玄関ドアを閉めようとした時「待った!」と節沢が二人を呼び止める。
「くれぐれも覗かないでくださいよ」
「鶴の恩返しかっ! 覗かねーよ」
「信頼していますからね二人共。それでは」
そしてドアが閉じられ、内側からガチャリと鍵がかけられた。
「全く信頼されてねぇ!」
「そんなことはどうでもいい」
芦長は大介のツッコミを流し、護衛の説明に入る。
「俺はアパートの裏を見張る。お前は玄関の前だ。敵が現れたらボコせ。以上だ」
「シンプルだな」
「わかりやすくていいだろう。いいか、くれぐれも寝るなよ」
そう言い残し、探偵はアパートの外階段を下りて裏側へと向かっていった。残された大介は、これから過ごさなければならない膨大で暇な時間のことを考え、うんざりする。
それでも、己の羞恥映像を取り戻すためだと自分に言い聞かせ、腕を組み背中を冷たい玄関ドアに預けた。
程なくして、シャワーの音が聞こえてくる。優花のシャワーシーンを想像し、思わず鼻の下が伸びる大介。
エロい顔をした護衛は、その後も自分のアパートを守護し続けた。
◇
うとうとしていた大介を現実に引き戻したのは、室内から聞こえてくる微かな声であった。携帯電話で時間を確認すると、時刻は深夜一時。見張りを開始してから五時間が経過していた。
眠っては駄目だと自分の頬をパチンと叩き、気合いを入れ直す。草木も眠る静かな夜。聞こえてくるのは、たまにアパートの前面道路を通り過ぎる車の音と、室内から聞こえる微かな音。大介の興味は、後者の音へと向けられた。
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