―其ノ弐― #2

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 音はどうやら、人の声のようだ。つまりは、節沢か優花のどちらかの声ということになる。大介は直感的にハッとなり、玄関ドアに耳を押し当てた。  若いカップルが二人きりで深夜にすることなど、決まっている。ピンク色の妄想世界を広げて、大介は見張りなどそっちのけで押し当てた耳に全神経を集中させた。  聞こえる声は男性の声。つまりは節沢の声である。これには思春期のエロ少年である大介もガッカリ。しかし、そのうち優花の声が聞こえてくるかもしれない。  ここで大介は気づいてしまった。禁断の扉である“郵便受けの蓋”の存在に。  ドアには鍵がかけられているが、このドア一体型の郵便受けの蓋を開ければ中を覗くことは可能だ。ムフフな妄想が過ぎったところで、節沢の「くれぐれも覗かないでくださいよ」という言葉が脳内に蘇る。  室内で鶴が機織りしている可能性はないが、人が子作りしている可能性は十分にあり得る。信頼を選ぶか欲望を選ぶか。そんなことは、選ぶ前から決まっていた。  そっと郵便受けの蓋を中に押し込む形で開き、変態大介は中を覗き込む。そこで目にしたのは――無数の鋭利で巨大な棘で串刺しにされた、節沢の姿。  辺りは血の海で、床から突き出た棘に貫かれた節沢は「う、あぁ……」と時折苦しそうな呻き声を漏らしている。 「クソッ!」  ドアノブを掴むも、やはりドアは開かない。中に入ることができないならば、せめて犯人だけは取り押さえようと大介は二階外通路から飛び降りた。  瞬間、空中に展開する赤いDANGERのテープ。自ら高所より飛び降りるという行為は“飛んで火に入る夏の虫”の発動条件に合致し、空中でテープを切った大介の体は一気に燃え上がる。  炎の体で地面に着地する。“心頭滅却すれば火もまた涼し”の効力により、大介の足には全くダメージがない。着地成功により飛び込んだ危険は去ったので、燃え上がったばかりの炎は早くも沈下した。そのまま大介は、芦長のいるアパート裏側へと走る。  芦長はアパートの外壁に背を預け退屈そうにしていた。その様子を見る限りでは、敵の侵入を許したとは思えない。駆け寄る大介に気づき、探偵も外壁から離れ歩み寄ってきた。 「どうした?」 「節沢さんが下から串刺しにされてる!」 「何だと!?」
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