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血相を変えて駆け出した芦長は、大介の部屋の直下階の窓を覗き込む。空き部屋であるそこには、人がいた形跡は見当たらない。
「チッ! 部屋へ行くぞ!」
大介の部屋へ向けて、二人は走り出す。鉄製の階段を駆け上ると、部屋のドアが開くのが見えた。
敵である可能性を考え、芦長と大介は一旦足を止め警戒する。だが、顔を覗かせたのは節沢であった。
「よかった! 生きてたのか!」
「生きてた? 何の話ですか?」
駆け寄った大介の目に映ったのは、怪我一つ負っていない節沢の姿。どんなに目を凝らしても、パジャマには血の一滴すら見当たらない。
「瀬野。これはどういうことだ?」
探偵から冷たい目が向けられる。
「いや、でも俺は確かにこの目で……ちょっと失礼」
自分の家であるのだが、一応断りを入れてから大介は玄関を通る。床には巨大な棘が貫通した穴などなく、血の海であったはずの部屋も綺麗なものであった。
「何かあったんですか?」と、心配そうな顔で優花が大介に問いかける。
「えっと、その……いや、何でもない。俺の気のせいでした」
大介は申し訳なさそうに謝罪をし、すぐに部屋を出た。そこでは不満顔の芦長と節沢が待っている。
「気は済んだか?」
「確かに血塗れの節沢さんを見たと思ったんだけど……ゴメン」
「フン、どうせ寝ボケていたのだろう。見張りが居眠りをしてどうする」
「返す言葉もございません」
肩を竦める大介へ対し、節沢が探偵に続き責め立てる。
「というか、部屋を覗いたんですか? そりゃあ約束と違うじゃないか瀬野君!」
「すみません。つい出来心で」
「郵便受けのところか! これ塞がせてもらうからね」
言うなり、節沢は何処からかガムテープを持ってきて郵便受けをきっちりと塞いでしまった。その執拗なまでのこだわりに、大介は違和感を覚えた。
この状況で彼女とやましいことをするとは到底思えない。万が一敵が室内へ進入したことを考えると、玄関の施錠もしない方が妥当であろう。大介が見張っている限り、誰も勝手に侵入することなどできはしないのだから。
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