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「まあまあ、それはテンゴの実力を見てから判断してよ皆。それじゃー先生、一筆お願いします!」
「うむ」
開いたノートを前にペンを振り上げ、天吾の“言技”が唸りを上げた。
言技“ペンは剣より強し”。文章は世論を動かし、時には武力以上に強い力を発揮することを意味することわざ。その言技の発現者である天吾は、誰よりも人の心を動かす文章を書くことができる。勿論、新聞もラブレターも問わず。ランクは“梅ノ中”である。
時間にして、僅か三分。一度も筆を休めることなく書ききった手紙のページを千切り、天吾は疑われている育に手渡した。無言で受け取り、読み始める育。叶と照子がその後ろに周り、共に手紙を読み始めた。
高鳴る鼓動。赤く染まる頬。崩壊する涙腺。キュンキュンと胸を締め付ける言葉の数々。小説化決定。漫画化決定。ドラマ化決定。映画化決定。そして、全米が泣いた。
そこまで飛躍した想像をしてしまうほど、そのラブレターは否の打ち所のない完璧なものであった。
「……わるかったわね、剣岳」
「いやいや」
涙声で育が謝罪した。探偵の嘘話といい、今日は女子がよく泣く日である。
「この文章なら成功間違いないね。剣岳君凄い」
「でっ、でも、流石に剣岳君に書いてもらったものをそのまま渡すわけにはいきません。とは言っても、私にあれだけの文章が書けるわけもないですし……」
シュンと落ち込む照子に、天吾が話しかける。
「今の手紙で皆が心を打たれたのは、文章だけじゃなくボクの言技による美化効果も大きい。所詮は“梅ノ中”だから、その効果も三十分ほどで切れてしまうんだけどね」
「それを除いても十分に感動するラブレターです」
「ありがとう村雲さん。文章ならボクが教えるから、書こうよ。告白を成功させるために、皆にも協力してもらっていたんだろ?」
天吾に言われて、照子は周囲を見渡す。今まで一緒に悩んでくれていた友人達は、照子を見て力強く頷いた。照子は瞳の涙を拭い、天吾に頭を下げる。
「よっ、よろしくお願いします先生っ!」
「うん! 頑張ろう!」
至る所で刻まれる、甘酸っぱい青春の一ページ。その行く末も、良かれ悪かれ近日中に刻まれることであろう。
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