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寄り添い抱き締め、姉は妹を守ろうとした。優花も姉を殺してなるものかと、決して眠ろうとはしなかった。眠りさえしなければ、言技は発現しないのだから。
しかし、生きていく上で睡眠は欠かすことができない。一生眠らないなど、できるはずもなかった。
不眠期間二週間。限界などとうの昔に越えている。目は虚ろに見開かれ、精神は限界を迎え幻聴や幻を見せる。頭痛、めまい、吐き気、高熱。様々な病が優花を襲い、そんな妹を姉は優しく抱き締めた。
「もういいのよ優花」
「駄目……だよっ。お……お姉ちゃんがぁ……死んじゃうッ! お願いお姉ちゃん。わ……私を嫌いになってぇ……」
「たった一人の妹を嫌いになれるわけないじゃない。いいのよ優花。もういいの。さぁ、ゆっくりおやすみ」
ゆっくりと、沈むように落ちていく。深い深い眠りへと。
夢の中では両親がいて、姉がいて、四人でピクニックへ出掛けていた。大きな木の下でサンドイッチを食べ、父とバドミントンをし、母と歌を歌い、姉と花を摘み――。
――夢が覚める。現実という名の棘が、彼女に容赦なく突き刺さる。
穴だらけになった姉は、死んでも尚優花を抱き締めていた。
◇
打ち明けられた過去。それは大介が想像していたものより何倍も悲惨なものであった。自分の過去の傷が霞んでしまうほどの悲劇。大介はかける言葉が見つけられない。
先に口を開いたのは、優花であった。
「安心して。一さんと出会ってからは不思議と言技が発現しないの。彼が生きているのが何よりもの証拠よ。私の言技は治ったの」
大介は昨晩の出来事を思い返す。部屋を覗いた時に見た、巨大な棘に貫かれている節沢の姿。あれはやはり寝ボケていたのではなく、現実であったのだ。
しかし、節沢は何事もなかったかのようにピンピンしている。彼もおそらく何らかの言技使いであることは想像ができた。何の言技かまではわからないが、どうやら“薔薇に棘あり”を無効化する力を持っているらしい。
言技が相性により欠点を補えることは、大介自身よくわかっている。節沢と優花も、きっとそうなのだろう。
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