―其ノ弐― #2

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◇  無数の雨粒がアスファルトを打ち付け、街全体を潤していく。道行く人々は当然傘を差し歩いており、中には相合い傘をしている者もいる。ここにもまた、そんなラブラブな組がいた。  大介と芦長である。 「何で俺がオッサンと相合い傘しなけりゃいけないんだよ」 「仕方ないだろう。喫茶店の外に置いていた俺のビニール傘は盗まれていたのだからな。それと、オッサンではない。俺はまだ二十九歳だ」  雨が降ると、同時に傘の盗難も頻繁に発生する。特に安価であるビニール傘は、安いが故に犯人も罪悪感が少ないらしく、狙われやすい傾向にある。 「なら、コンビニで新しい傘買えよ」 「断る。それでは盗人に負けた気分になるからな」 「男同士の相合い傘の時点で十分敗北者だろ」  周囲の視線を気にする大介に対し、あまり気に止める様子のない芦長。髪は汚れ髭もまともに剃っていない彼は、元々他人からどう見られるかなど気にしない人間なのであろう。  残念な相合い傘を先導して歩いているのは、依頼人の節沢である。大介は一度芦長を節沢の傘に入れようとしたのだが、「僕と相合い傘していいのは、愛しの彼女だけだ!」と物凄い剣幕で怒られ、現在に至る。 「着きました」  節沢が立ち止まって見上げたのは、ごく一般的なビジネスホテル。ここに大介が護衛をする桜ランクの彼女が宿泊しているらしい。 「今呼んでくるので、二人はそこで待っていてください」  そう言い残し、節沢はホテルの中へと消えていった。降りしきる雨の中、相合い傘をした男二人がホテルの前に立っている。 「気持ち悪い絵面だな」 「何の話だ?」 「説明したくもねーよ」  溜息と共に吐き捨て、大介は言葉を続ける。 「節沢さんのいないうちに聞いておきたいことがある」 「何だ?」 「護衛対象のことだ」  大介は曇った表情で疑問を述べた。 「フェイルが狙うのは、危険度の高い“桜ノ下”からだ。だが、桜ノ下とまでなると発現者はほとんど生存していない。となると、一番の標的は“桜ノ中”になる。奴らの目的がそこに集中しているからこそ、俺のような“桜ノ上”が狙われる可能性は少ない。……彼女さんのランクは“桜ノ中”なのか?」
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