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「まぁ、なんだ。俺には大したこと言えないけどさ」
大介は、彼女へ手を差し出す。
「腹を割って話し合った俺と優花さんはもう友達だ。フェイルからは俺が必ず守るから、よろしく」
「……ぷっ! あははははっ! 何恥ずかしいこと言ってるのアンタ!」
優花が堪えきれずに大声で笑い出す。その目に光る涙は笑いすぎによるものなのか、それとも別の意味があるのかは大介の知るところではない。
「こちらこそよろしく。大介君」
彼女が初めて大介の名を呼び、ニコリと微笑む。彼氏の前での清楚なイメージとも、先程までのぶっきらぼうで突き放すようなイメージとも違う雰囲気。おそらく今の彼女こそが、素の優花なのだろう。
「よろしく」と二人は握手を交わす。寝たふりをして話を聞いていた芦長の顔は、微かに微笑んでいた。
◇
昼食の買い出しへと出ていた節沢は、右手にコンビニ弁当が四つ入った袋を提げ、昼下がりの帰路を歩く。
空には灰色の雲が広がり始めている。天気予報では、夜からまた雨が降り出すようだ。梅雨はまだ明けそうにない。
コンビニから大介のアパートまでは一本道。にも関わらず、節沢は道を左に折れ路地裏へと入った。曇り空のせいで、路地裏は日中でも薄暗い。迷路のように入り組んでいる道を、節沢は当てもなくさまよう。
決して道に迷ったわけではない。人気の少ない道で時間を潰すことにこそ、節沢の目的がある。温めてもらった弁当は、少しずつ冷めていく。
――音が聞こえた。
ガシャンガシャンと、金属同士が擦り合う音。銀色が眩しい西洋甲冑が、節沢の行く手を塞ぐように現れた。その傍らには、無表情な小学校中学年くらいの男の子もいる。
「随分と不用心だな。さぁ、どうしてくれようか」
西洋甲冑が手に持つ槍を節沢の喉元に突き立てる。が、節沢は平然とした顔で言葉を返した。
「不用心ってわけじゃないよ。おびき出したのさ。ボクが一人で人気のないところを彷徨けば、必ず接触してくると思ったよ」
「ベラベラとよく喋る口だ。桜ランクを庇う貴様に発言する権利などない」
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