―其ノ弐― #2

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「俺も詳しくはわからない。依頼人はただ“彼女は治った”というばかりで、詳しいランクやその能力については教えてくれない。治っているのだから説明の必要はない、とな」 「治った……か」  その言葉は、易々と信じられるものではなかった。特に、忌々しき言技を消してしまいたいと思い続けてきた大介にとっては。 「言技が治ったって、消えたってことなのか? そんなことがあり得るのか?」 「聞いたことはないが、言技の歴史はまだ高々五十年だ。例外はこれからも現れ続けるだろう。他ならぬお前も例外だろ、瀬野」 「……例外ね」  芦長の言葉に対し、大介は誉められた気分にはならなかった。複言の発現により確かに誰かを守る力を手に入れることはできた。それでも、大切な人を燃やしてしまうかもしれないという“飛んで火に入る夏の虫”の呪縛からは解き放たれていないのだ。  危険地帯に飛び込めば、その体は否応なしに燃え上がる。大介自身は大丈夫でも、周りはそうはいかない。桜ランクのレッテルは、決して剥がれ落ちたわけではないのである。 「まあ、依頼人の彼女の言技は消えたのだとは限らない。発現しない条件を見つけたとか、別の言技で封じることに成功しただとか、治ったと公言できる理由はいくつかある」 「言技について調べないのか? アンタなら簡単にわかるだろ」  芦長の言技“一を聞いて十を知る”。ランクは“梅ノ中”で、その能力は僅かな情報のみで常人ではたどり着けない域の情報を掴むことができるというもの。人の言技を知ることくらいなら、朝飯前なのだ。 「詮索するなというのも仕事の条件に含まれている。調べるのは容易いが、それで契約不成立で金を貰えなくなっても困るだろう。俺はきずなやお前と違い、余計なことにまで口を突っ込みはしない」 「そう言う割には色々と助けてくれるあしながおじさんだって聞いてるけどな」 「オジサンではない。お兄さんだ」  一連の会話を終えたところで、ホテルから出てくる節沢の姿が見えた。話に聞いていた彼女の姿はそこにはない。大介と芦長が不思議に思っていると、節沢は二人の元へと傘も差さずに駆けてきた。その表情は、今にも泣き出しそうになっている。 「何かあったのか?」 「いないんだ……彼女が! 彼女がいないんですッ!」  節沢の表情でよくないことが起きていることは悟っていたので、大介は冷静に頭を働かせることができた。
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