―其ノ弐― #2

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「落ち着いて。近場のコンビニに行っているとかじゃないのか?」 「部屋には財布も携帯電話も残っていました。それに……」 「それに?」  青白い顔で、節沢が口を開く。 「ベッドに、剣が突き刺さっていた」  剣。そのキーワードで、大介と芦長は全てを理解した。  言技“堅(ケン)を被り鋭(エイ)を執る”。それは芦長から事前に聞いていた、節沢の彼女を狙うフェイルの言技使い二人のうちの一人の言技である。意味・能力は共に“武装”。発現者は鎧を瞬時に纏い、武器を手元に出現させることができる。  ランクは“竹ノ中”で、大介が戦った鬼神のリーダー・加賀屋剛と同じではあるが、出現させることのできる武器に銃等が含まれず剣や槍などに限られる点から、芦長は加賀屋より厄介な相手ではないと踏んでいる。故に大介の敵ではないと考え、彼に仕事の話を持ちかけたのである。  そして、その言技使いが何らかの方法で節沢の彼女の居場所を掴み、奇襲。彼女は財布も携帯電話も置いたまま逃走した。そう推測するのが無難である。 「とにかく、手分けして彼女さんを探そう。俺は駅の方へ行ってみる」 「俺は商店街へ向かう」 「じゃあボクは……あっちの方で! 見つけ次第連絡ということでよろしくお願いします!」  男同士の相合い傘は地面へと投げ出され、三人はそれぞれ別々の方向へと散っていった。  激しさを増す雨の中を疾走し、大通りに出た大介はそれらしき女性を探す。通りを行き交う人々は、ずぶ濡れでキョロキョロしている少年に不審な目を向けていた。 「……あ」  ここで大介は、物凄く大事なことに今更気づいた。 「彼女さんの情報、何一つ聞いてないっ!」  そうなのである。大介は捜索対象の顔も、服装も、名前すらも知らずに飛び出してきてしまったのだ。  ならば電話で聞けばいいと携帯電話を取り出すも、よくよく考えれば大介は節沢の番号を知らなかった。しかし、まだ策はある。  芦長に聞けばいいのだ。大介のアドレス帳に探偵の番号は登録されていないが、保健室で電話を受けているので履歴から電話をかけることができる。――ただし、非通知でない場合に限る。  万策尽きた大介は、気を取り直し捜索を再開した。情報がないので聞き込みは厳しいが、それらしき女性を自分の足で探すことはできる。他にできることはないと割り切った時、大介の目の前をバイクが猛スピードで通過した。
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