―其ノ弐― #2

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 いや、正確にはバイクではない。バイク並のスピードで走る人間であった。 「風切!」  名前を呼ばれ、速人は急ブレーキをかける。ズザザザザと大きな音を立てながら停止した速人は「瀬野か。偶然だな」と涼しげに声をかけてきた。 「ずぶ濡れではないか」 「ずぶ濡れはお互い様だろ。また例の如く警察に追われてんのか?」 「ご明察。困ったものだよ全く」  腕を組み溜息をつく速人。ふと大介は、速人に彼女のことを尋ねてみようと考えた。しかし、情報がないので尋ねようがない。それでも考えられる情報を寄せ集め、大介は質問を練り上げた。 「なぁ風切、鎧つけて武器持った奴に追われてる女性を見なかったか?」 「見たぞ」  素晴らしきミラクル。 「えっ、見たのか! 何処で!?」 「ゲーセンだ」 「その女性はどうしたんだ!?」 「無事だぞ。西洋甲冑の不審者は大山が追い払った」 「よかった。大山がいたのか。アイツの言技、見てくれだけは松ランク並だもんな」  話しているうちに、サイレンの音が近づいてきた。やがて見えてきたパトカーからは中年男性が窓から顔を出し「逃がさんぞ風切ィ!」と大声を上げている。 「しつこいな金型さんも。悪いな瀬野、オレは行く」 「ああ、助かった」 「大山の他に六原とシャギーもいる。誰かと連絡を取ってみるといい。じゃあな」  そうして、速人は風のように駆けていった。その後を金型の乗るパトカーが追う。「大変だな」と呟いてから、大介はとりあえず傘を入手するためコンビニへと入った。  ずぶ濡れ男の入店に、店員は露骨に嫌そうな顔をする。長居をしても嫌がられるだけなので、大介はビニール傘を買ってすぐに店を出た。  新品の傘を開き、携帯電話を取り出す。風切はゲームセンターで出会ったと言っていたが、今もまだそこにいるとは限らない。おそらく共にいるであろう友人に電話で確認してから行動した方が、間違いなく効率的である。
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