―其ノ肆―

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 夕方。大介がアパートへと戻ると、大型のトラックが停まっていた。有名な引っ越し業者のマークが車に刻まれていたので、誰かがアパートに引っ越して来たのだということは一目瞭然である。  業者の人達が次々と荷物を運び入れているのは、大介の真下の部屋。となると迷惑をかけてしまうこともあるかもしれないので、挨拶をしておこうと思い大介はその部屋へと向かった。 「あのー、ここに引っ越される人ってどなたですか?」 「ああ、中にいるあの子ですよ」  業者の男が指さす先では、女の子が段ボールを開き皿やコップを取り出していた。金のないくたびれたオッサンでも引っ越してきたのだろうと踏んでいた大介は、女性であったことにまず驚いた。  その女性の服装は、セーラー服であった。つまりは、大介と同年代ということになる。綺麗な長い黒髪に、スラリとした美しいスタイル。顔の左半分は包帯に包まれており、それは大介のよく知る女の子と酷似していた。  というか、硯川叶であった。 「うええええええええええ」 「あ、大介君。どうして今日学校来なかったの?」 「いやいやいや、それより何で硯川がこのアパートに引っ越して来てんだよ!?」 「何でって、私もいい加減に住む部屋を見つけないとですし」  叶はきずなの力により高校への入学が決まってから今までの半月ほどを、ビジネスホテルで過ごしてきた。急な入学決定であったため、仕方なかったのである。  実家は通える距離にないので、一人暮らし用のアパートを借りなければならないことは大介にもわかる。問題は、何故選択したのが同じボロアパートなのかという点だ。 「いいか硯川、悪いことは言わん。今からでも辞めとけ。ここは女の子が住めるような環境じゃない」 「ボロっちいのなら平気だよ?」 「それだけじゃない。このメゾン努羅魂に住む奴は大概深夜に酔っぱらって帰ってくるし、大家はメタボで元暴走族だし、ゴキブリとかもわんさか出るし、壁も薄いし、トイレも和式だ」 「楽しそうだね!」  どうやら、説得するだけ無駄であったようだ。 「あのなぁ、こんなボロアパートじゃなくて、もっとセキュリティとかしっかりしたところにするべきだって。ほら、女の子なんだからさ」 「セキュリティなら問題ないよ。だって大介君がいるもの」
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