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混じりけのない笑顔で、叶が言う。勿論大介の目の黒いうちは叶に怪しい輩を近づけさせたりなどしないので、確かに彼女の言う通り、セキュリティは抜群かもしれない。
「これからは一つ屋根の下だね」
「そっ、そういう言い方はおかしいだろっ!」
「でもこのアパート、屋根は一つだよ?」
「いや、そりゃそうだけどさぁ」
どうにも大介は叶のペースに度々巻き込まれる節がある。彼にはどのみち叶を突き放すなどできるはずもないので、最終的にはこれからよろしくという形で落ち着いた。
荷物を全て下ろし終え、引っ越し業者は去っていった。後に残ったのは、段ボールの山。これを一人で整理するのは困難であろう。
「荷物の整理手伝おうか?」
「うん。ありがとう」
大介の申し出を了承し、二人は荷解き作業へと取りかかった。
家具家電等大きい荷物は業者の人が定位置に置いてくれたので、残る荷物は段ボールのみである。
梱包を解き、雑貨小物を取り出し叶に置き場所を尋ねるという流れ作業。それをそつなくこなしながら、大介は内心ドギマギしていた。
初恋の女の子が自分の真下の部屋に引っ越して来たのだ。興奮せずにいられるわけがない。
「す、すす硯川、コレは?」
「それは本棚の右上にお願い」
「お、おう」
大介の口から出る言葉はぎこちなくなっている。指示の通りの場所に小物を配置し、大介は木目の刻まれている天井を見上げた。
この天井と自分の部屋の畳との間には、大量のエロ本がぎっしりと挟まっている。そう考えると、大介は罪悪感で押しつぶされそうになった。
「この天井、何かの拍子にぶっ壊れて本がバサーっと落ちてくるなんてことはないよな」
「ん? 大介君何か言った?」
「なっ、何でもない!」
どうやら心の声が漏れていたようで、大介は慌てて口を噤み作業に戻る。溜息をボロ畳に落としつつ、大介は次なる段ボールの梱包を解く。
エロ本に関することも問題ではあるが、それよりももっと優先するべき問題がある。――他でもない、大介の言技の件だ。
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