135人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「その後も大介君が目覚めるまで待つつもりだったんだけど、保健委員の剣岳君に『あとは任せて』って言われたから……」
「あー、うん。何となくわかってきた」
眉間にシワを寄せ、大介はあらかさまに不機嫌な顔をした。矛盾している叶と天吾の意見。大介は言うまでもなく叶の方を信じているので、天吾が嘘を付いているということになる。
当然ながら、それだけが理由ではない。嘘を付くことで天吾には得があるのだ。自分が助けたことにすれば、大介に恩を売れる。それを利用して天吾は取材を断れないようにしたのだ。
思えば大介は彼の思惑通りに動いてしまい、言技に対する質問にペラペラと答えてしまった。それが今となっては悔やまれる。
「剣岳君が嘘を?」
大介からの説明を聞いた叶は、とても意外そうな顔をしていた。
「ああ。あの野郎、明日会ったら許さん!」
「でも、悪い人じゃないと思う」
擁護する叶の発言に、大介はがっくりと肩を落とした。叶が天吾を悪い人ではないと思ったのは、彼女の言技の影響もあるだろう。だが、理由は他にもあった。
「だって、剣岳君は照子さんのラブレター作りを親身になって手伝ってくれたんだよ?」
「村雲のラブレター?」
「うん。剣岳君の言技“ペンは剣より強し”は、誰よりも人の心を動かす文章が書けるの。長い時間協力してくれた上に、文房具までくれたよ」
叶はスカートのポケットからボールペンを取り出し、大介に見せた。
「流石は新聞部なだけあって、文房具選びが上手いみたい。このペンも凄く書きやすいんだよ」
「何だよ。硯川はアイツの肩を持つのかよ」
「別に私はどちらかの肩を持つつもりなんて。仲良くが一番じゃない?」
実に叶らしい意見であった。そしてそう言われてしまっては、大介に反論などできはしない。
「……わかったよ。仲良くな」
「うん。あ、そういえば大介君、何で今日学校休んだの?」
不意打ちであった。とことんマイペースである叶は、時々とんでもないタイミングで痛いところを突いてくることがある。一度は誤魔化したその質問も、今度ははぐらかすことができそうになかった。
仕事続行中であるならば、話してはいけないことである。だが、納得できない形ではあるものの仕事は終わったのだ。終わった過去の話をするだけならば、何も問題あるまい。
最初のコメントを投稿しよう!