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「何の用だよ――クソ探偵」
「クソとは随分だな。これだからガキは嫌いなんだ」
「そこを退けよ。俺はせめて二人を見送るまでは護衛を務める。そのくらいいいだろ?」
「そりゃあ好都合だ」芦長はニヒルに笑う。「俺もそのつもりだからな」
大介には芦長の言葉の意味が理解できなかった。無慈悲に依頼の終了を告げたのは他でもない探偵本人であるにも関わらず、その芦長がどういうわけか大介と同じ考えに至っている。
「何だよ。節沢さんから追加料金でも貰ったのか?」
「ここからはアフターフォローというやつだ。お前は送り出すまでは護衛を務めたいという甘い考えのようだが、俺は違う。その短時間でフェイルと再戦に持ち込むつもりだ」
どうやら、探偵の突き放すような行動には考えがあってのことのようであった。芦長は説明を始める。
「まず俺はあの二人に『今日はもう手を出してこないだろう』と言ったが、あれは嘘だ。お前との戦闘によるダメージは然程深刻ではないだろうし、早期決戦は向こうも望むところだろう」
「ハァ!? じゃあ何で俺をあの二人から引き離したんだよ!」
「間抜けめ。お前にもフェイルのガキの方の言技は教えたはずだろう。あのガキの言技“天に眼”は相手の位置情報を捕捉する。お前が行動を共にしていては、敵も慎重になる。短時間で奴らを誘き出すのは厳しい」
「それならそれで無事に二人が逃げられるじゃねーか」
「その代わり、次の逃走先で殺されるかもしれんがな」
ここまで聞いた時点で、大介には探偵の策略が理解できてきた。
大介を引き上げさせたのは、二人を囮にしてフェイルを誘い出すため。逃走先でフェイルに遭遇しては、もう大介の手は届かない。だが、この街にいる間ならば大介の手は届く。二人のために戦うことができる。
「……ははっ。きずなの言う通り、アンタあしながおじさんだな」
「おじさんではない。お兄さんだ」
咳払いをしてから、芦長は話を続ける。
「別れ際に依頼主のポケットへ盗聴器を忍ばせておいた。場所は駅で、拾った音声からの情報によると夜八時発の夜行バスに乗るようだ」
「ってことは、あと一時間ちょいってことか。本当に奴らが来るのか?」
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