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「来る。戦線から離脱し、治療や食料の摂取をしコンディションを整え、居場所を捕捉し慎重に動くとなれば、俺の計算ではそろそろ頃合いだ」
「よくそんな計算ができるな」
「名探偵だからな」
恥ずかし気もなく言ってのけると、芦長は踵を返す。
「というわけだ。急ぐぞ瀬野。と言っても、お前はもうお望みのUSBメモリを獲得しているからな。無理にとは言わんぞ」
「行くに決まってんだろ」
「そうか。ならば、次こそ仕留めろ。殺せとは言わないし、顔を殴る必要もない。相手は確かに女だが、手加減はするな。きちんと守りたいものを見据えろ」
「……わかってる」
「お前が勝っても二人はフェイルの別のメンバーに追われることになるだけかもしれない。だが、桜ランクの言技による被害者は出ていないのだから、気が変わってしばらく泳がせてくれる可能性もなくはない。人一人の行動により未来がどう変わるかなんてことは、誰にもわからないものだ」
「早い話が、俺にできることをやればいいんだろ?」
「簡潔に言えば、そういうことだ」
意見を交わし合い、大介は頬を緩ませた。目の前の男は無愛想で近寄り難く、不衛生で何を考えているのかわからない。だが、その行動や発言の一つ一つには意味があり、常に最善の方法を考えてくれている。
信頼できる、立派な大人。不器用なあしながおじさん。
「よっしゃ! そうと決まれば走るぞ!」
「待て」
駆け出す気満々であった大介は、足がもつれて転倒する。
「何だよ!」
「あのカップルを調べさせてもらった。依頼中は余計な詮索をするなと言われていたが、表向きではもう依頼は完遂しているからな」
「それで?」
「園山優花に関しては別にいい。言技も過去も悲惨なものだな。狙われる理由はよくわかった」
芦長の言葉で大介は優花本人から聞いた彼女自身の言技と過去の話を思い出し、拳を硬く握り締める。
「問題は彼氏の方だ」
「節沢さん? あの人も何か秘密があるのか?」
「秘密どころの騒ぎじゃない」
そして、芦長はとんでもないことを暴露した。
「節沢一という男は――五年前に死んでいる」
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