―其ノ肆―

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「そういえば、今日引っ越すって言ってた叶ちゃんのアパートって何処なのかなー?」 「まだ内緒って言ってましたね。今度遊びに行きましょう」 「まぁ、少なくとも瀬野のボロアパートよりはマシなところよね」  三人は揃って笑い声を上げる。まさか叶が今日から大介と同じボロアパートで暮らし始めるなどとは、夢にも思っていないことであろう。  止めどなく続けられるガールズトーク。そのボックス席の横を、三人組が通り過ぎていく。一人は帽子を深く被った眼鏡の男。一人は短髪黒髪で目つきの鋭い大学生くらいの女性。そして最後の一人は、小学校中学年くらいの男の子。  三人は会計を済ませて「いってらっしゃいませご主人様」と見送りを受けると、店の外へ出た。 「何だこの店は。天吾、貴様はこんな店が好みなのか?」 「ファミレスが込んでいたから仕方なくだよ。まぁ、嫌いと言えば嘘になるけどね。アキラもバイトしてみたらどう?」 「冗談でも殺すぞ」 「どのみち殺されるじゃないか」  アハハと笑い適当にアキラの怒りを受け流すと、天吾は膨らんだ胃の辺りを擦っている新の肩に手を置いた。 「どう? まだちゃんと駅にいる?」  尋ねられ、新は無言で目に意識を集中する。そして、発現する言技“天に眼”。瞳の色が金色に変わり、その目で少年はターゲットである優花の居場所を捕捉した。 『三番のバス乗り場で、あの不死身男と一緒にいる』  そう書かれたメモ帳に目を通し、天吾は「了解」と少年の頭を撫でた。新はそれを心底嫌そうに払いのける。 「結局瀬野大介は合流していないか。つまんないなぁ」 「ならば貴様は黙って見ていろ」 「ああ、アキラのターゲットに手は出さないよ。代わりにその不死身の男で遊ばせてもらおうかな。ソイツも罪人なんだろ?」 「罪人だがやめろ」アキラが釘を刺す。「貴様の殺り方は目立ちすぎる」 「確かにね。一般人は巻き込んじゃいけないってフェイルの方針はわかってるけどさ」  天吾は取り出したボールペンをガジガジと噛み出す。それはまるで、子どものような行動であった。 「一度湧き上がってるからね」天吾は無邪気な笑みを見せる。「我慢できる保証はないよ?」  アキラは天吾と組んだことを後悔した。大介の合流を警戒して連れてきたが、大介がいないのであれば邪魔にしかならない。
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