―其ノ肆―

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「貴様のターゲットは瀬野大介だ。園山優花の件が片付いたら狩りにいけばいい。それまでその衝動は押さえておけ。いいな?」 「努力してみるよ」  へらへら笑うと、天吾が「行こうか」と駅に向かって歩き出す。若干の不安を抱えつつ、アキラと新もその後に続いた。  ◇  駅内のベンチで寄り添うように座り、バスの到着を待っている節沢と優花。二人の前を何人もの人達が行き交い、途中優花の美貌に足を止める者もいた。だが、隣にいる彼氏の存在に気づくと皆名残惜しそうに歩みを再開し去っていく。 「あと一時間。一さん、フェイルは来ないですよね?」 「うん。これだけ一般人が集まっていては、襲って来られないさ」 「よかった」  柔らかく微笑み、優花は節沢の方へ体を預ける。 「少し疲れちゃった。眠ってもいいですか?」 「……いや、駄目だ。悪いけど、今夜は徹夜を覚悟してくれ。宿泊先を見つけたら、そこでぐっすり眠っていいから」 「そうね。いつも一さんに言われてるものね。人前で寝てはいけないって」  寄り添っていた体を離すと、節沢の申し訳なさそうな顔が目に入る。優花は視線を下に落とし、ポツリポツリと話し始めた。 「……一さんは、二十分遅れで反対方向へ行く夜行バスも来るって知ってました?」 「いや。優花は北へ向かいたいのかい?」 「いえ、そういうわけではありません」一息付いてから、優花は切り出す。「別れるなら、このタイミングかなと思って」  予想だにしていなかった別れ話に、節沢は絶句した。そして、動揺しながら優花に詰め寄る。 「何で急にそんなこと!? 何かボクに気に入らないところがあるのかい? 悪い癖があるなら直すよ! 今の会社は辞めなきゃだけど、逃走先で落ち着いたらまた仕事を探す! 貯金だってまだ……そ、そりゃあ多くはないけど」 「違うのっ!」  優花の大声が、節沢の言葉を遮る。彼女は両手で顔を覆い、声を押し殺すように泣き出した。 「違うって、何が?」 「私はアナタに不満なんて一つもない! 駄目なのは私の方なの。捻くれた私は、こんなに素敵なアナタを疑わずにはいられない」 「疑うって、一体何を?」 「……一さん」優花が問う。「アナタは本当に、私を愛しているの?」
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