―其ノ肆―

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 優花が疑惑を持つのは無理もないことである。彼女の言技は、優花に対する愛が強い者から順に巨大な棘で死ぬまで串刺しにしていくというもの。その発現により最初は両親が、次に姉が殺された。  今現在、優花をもっとも愛しているのは恋人である節沢であり、言技の殺戮対象は彼になる。そして、彼が死なない以上他の者に被害は及ばない。  しかしながら、毎晩棘に襲われているはずである彼は優花の知る限り怪我一つ負ったことがない。だからこそ、彼女は疑わずにはいられないのだ。――節沢一は、本当は自分のことを愛してなどいないのではないかと。 「キミの言技がボクに対して発現していないと思っているのかい? それは誤解だ。棘は毎晩ボクを襲いに来ているよ」 「なら教えて一さん。アナタは何の言技で私の棘を防いでいるの? 何故それを教えてくれないの?」 「……ゴメンよ。それだけは教えられない」  節沢はそっと目を逸らす。気まずそうに。それでいて、辛そうに。 「アナタはそればっかり! 私は本当にアナタのことを愛しているの! でも、その疑問が解けない限り自分の全てをアナタに見せられない!」  責め立てる優花は、両の目から流れる大粒の涙を隠そうともしない。 「アナタの前だと、どうしても素の自分を偽ってしまう。おしとやかで可憐な女性を演じようとしてしまう。アナタに愛想を尽かされるのが怖くて……怖くて仕方がないの」 「偽る必要なんてないよ! 素のキミを見せてくれ。ボクはどんなキミでも愛し続ける!」 「ならアナタの言技を教えてよ! 私もアナタが例えどんな言技を有していても愛し続ける! だから……お願い」  彼の手を握り締め、優花は懇願する。  節沢の言技を知らされていない彼女は、本当に自分の言技が治ったのだと心から信じることができないでいた。故に他人と、特に異性と出会ってしまった時は無愛想で嫌われるような態度を取ってしまう。間違っても惚れられてしまわないために。  そんな矢先、同じ桜ランクでも友達に恵まれている大介と出会った。彼と話し、心境に変化が起きたのだ。  桜ランクだからと萎縮してしまうのは嫌だ。フェイルに追われる身では不可能かもしれないが、自分も友達が欲しい。本当に自分の言技が治ったのだと確認できれば、優花は少なくとも他人に対する無愛想な態度を辞めることができる。
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