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刃が弧を描き、節沢の左肩から右脇腹にかけてを大きく斬り裂く。噴き出す血飛沫。優花は絶叫し、堪らず目を逸らした。
だが、目を戻した時には節沢の怪我は綺麗に治っていた。それどころか、服も斬れておらず血の跡すらない。優花は白昼夢でも見ているのだろうかと混乱に陥る。
「夢じゃないよ優花。ボクは今斬られた」
「じゃあ、何で……」
「言っただろう? ボクは死んでいる。――既に死んでいる人間が、もう一度死ぬことはない」
優花が目を見開く。次の瞬間、目前で彼氏の右腕が斬り飛ばされた。赤黒い血が優花の体にかかり、節沢は悶絶し、右腕が床に転がる。
突然の惨劇に、駅はパニックに陥った。人々が悲鳴を上げ、我先に出口へと向かっていく。
「何だよアキラ。キミだってボクのこと言えないじゃないか。こんなに派手なことしちゃって」
「私は人払いも兼ねて派手にしたのだ。貴様と一緒にするな」
「つれないねぇ。おっ?」
天吾が興味を示したのは、節沢の再生の様子。斬り飛ばされた腕が消滅し、優花に付着した血も消え、いつの間にか節沢に右腕が戻っている。
「ぐっ……ゆ、優花には指一本触れさせない!」
「痛覚はあるわけか。不死身ってのも難儀なもんだね。壊れないサンドバックの彼氏さん」
小馬鹿にしたように笑う天吾の前で、アキラが日本刀を構える。対する節沢の行動は、やけくそとも取れるような突進であった。
「ぐあッ!」
案の定、節沢の腹部を刀が貫く。だが、アキラを転倒させることには成功した。立ち上がり刀を引き抜くと、節沢は優花の手を取り出口へ向かい走り出した。
「おのれっ!」
「みっともないなぁアキラ。仕方がない。手を貸してあげるよ」
そう言って、天吾は取り出した何かをカップルへ向けて投げた。それに気づいた節沢は、優花を庇うよう彼女の前に出る。
刹那――爆発が起きた。
駅の出口から、火達磨になった節沢が転がり出る。炎に包まれた彼氏を救おうと、優花は上着を脱ぎ消火に取りかかった。
やがて炎は沈下する。節沢は大火傷を負っていたが、それもすぐ洋服すらも元通りに回復した。
「逃げ出すなんて駄目だなぁ。悪はきちんと裁きを受けないと」
ヘラヘラと笑い、天吾がアキラと新を引き連れて駅から出てくる。
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