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地鳴りのような轟音が辺りに響き、拳の体から噴き出したオーラのようなものが巨大な虎へと形を変える。
「ウォレの言技は“虎穴に入らずんば虎子を得ず”。能力は一撃必殺だ!」
言技を偽り相手を威嚇するが、その意味と能力はデタラメにも程がある。だが、実際に目に見える形として虎が出現しているのだから、アキラはゲームセンター前で遭遇した時と同様足を止め警戒する。
「ぐわっはっは! 今ならまだ見逃してやるぞ? 仲間を引き連れて三秒以内に失せな」
「……チッ」
「大丈夫だよ」舌打ちをするアキラに、天吾が助言する。「大山拳の言技は、単なるハッタリを噛ますだけだ」
本当の能力を見抜かれ、拳があからさまに動揺する。アキラが試しに剣を構えてみると、目前の巨体男はビクリと飛び跳ね大量の冷や汗を流し始めた。
「全く、くだらないにも程がある!」
実態がわかれば恐れることなど何もない。アキラは拳へ突っ込み、鋼の小手を右手に召喚するとそれで拳の腹部を打ち抜いた。
呻き声を漏らす暇もなく、拳はその場に崩れ落ちた。そこへシャギーと、出番のなかった理将が駆け寄る。
「大丈夫か大山っち!」
「無駄だ。完全に気を失っている」
言って、アキラは剣を三人へ向けた。
「まだ刃向かうというのなら殺すまでだ。選ばせてやろう」
「と、ととととんでもない! 引き上げますって! なぁシャギーっち?」
慌てふためきながら下手に出ている理将の言葉に、シャギーは同意の返事を返さない。彼が見据える先には、帽子を深く被った男。何故彼が拳の言技を見抜けたのか、シャギーは疑問に思っていた。
そして、その疑問は唐突に解ける。
「……天吾君か?」
「あーあ、バレちゃったよ」
あっさりと観念して、天吾は帽子を投げ捨てた。夜の街に浮かび上がるのは、不敵な笑みを浮かべる同級生。同じ学校に通う彼ならば、拳の言技を知っていて当然である。
「わざわざ制服から着替えて簡単な変装までしたのに、面倒なことになったね」
「ならば交渉だ。キミがフェイルであることをバラさない代わりに、この場は引いてくれ」
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