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「残念だけど、それは交渉材料にはならないよ社木さん。ボクが変装をしていたのは、ただ単にバレると面倒だからだ」
目論見が外れ、シャギーは眉間にシワを寄せる。
「バレたらバレたで、どうということはないよ。警察が見て見ないフリをしている時点でわかるだろ? フェイルは警察公認の組織だ。つまり、ボクらの正義は認められている。キミ達はヒーローを気取ってあの女を連れ去ったのかもしれないけどさ、その行動は紛れもなく悪なんだよ」
「つまりは、自分が正義の味方だと言いたいのか? 笑わせないでくれ」
「もう一度言ってみろ」
シャギーへアキラの持つ剣が突き立てられる。それでも彼は、言葉を止めなかった。
「あんなに必死になって逃げる女性を追い回し殺すのが正義? その女性を守ろうとする男をボロボロにするのが正義? 馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「ちょっ、やべーってシャギーっち!」
「弱者のくせに、ベラベラとよく回る口だ」
見るからに怒りのボルテージを上げたアキラが、シャギーを蹴りつける。仰向けに倒れたシャギーへ向け、アキラは言葉を吐いた。
「貴様らは桜ランクの本当の恐ろしさを知らぬからそんな綺麗事が言えるのだ。見ろ。あの男を貫いている数多の棘。あれは貴様らの仲間が連れ去った桜ランクの言技によるものだ」
アキラが指さす先にいるのは、今も尚棘に貫かれて苦しんでいる節沢。その光景は、直視できないほど惨いものであり、シャギーは溜まらず目を逸らす。
「桜ランクは天災ではなく人災だ。事故ではなく事件だ。未然に防ぐことができる。これ以上我々のような犠牲者を増やしてはならんのだ!」
「……キミの抱えているものは僕にはわからない。けど、どんな理由があっても僕にはキミらが正義だとは思えないよ。僕の思い描くヒーロー像は、つい先日の事件の時から固まってしまっているからね。だから勿論、僕自身もヒーローを気取る気はない」
「ならば、何故我々の前に立ちはだかった?」
「決まっているさ。決まっているよ。決まっているだろう」シャギーは笑う。「真打ち登場までの時間稼ぎさ」
――そして、ヒーローは遅れてやって来る。
駅の前に現れた人の影。息切れしていることから、走ってきたことが見て取れる。そこに立つのは、瀬野大介。シャギーが待ち望んでいた、やって来ると信じていたヒーロー・飛火夏虫。
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