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「ならば聞くぞ。お前は何がどうなれば依頼完遂だと考えている?」
「そりゃあ……あの騎士みたいな女を倒して、優花さんをもう二度と狙わないと誓わせたら完遂だ」
「アホめ」
探偵は胸倉を掴んでいた大介の手を振り払うと、煙草を吸い灰色の煙を吐き出す。
「まず第一に、誓いなんてものを守る保証はない。最善のやり方としては、二度と戦えない体になるまでぶちのめすか、殺すかだ。顔面を殴ることすらできなかったお前に、それができるとは思えんな」
図星の指摘に、大介は言い返す言葉が見つからない。
「仮にそれができたとしても、フェイルは組織だ。別のメンバーがすぐに送り込まれるだろう。お前はこの先何年もコイツらと行動を共にして護衛を続けるのか? 学校はどうする? 友達は? そこまでする義理はないだろうが」
「……でもっ、それでも俺はッ!」
「もういいよ大介君」
論争を止めたのは、優花の一言であった。
「いいって、死ぬかもしれないんだぞ? いいわけないだろ!」
「でも、全て探偵さんの言う通り。そんなことを言い出したらキリがなくなるわ」
優花は柔らかく微笑み、節沢の腕に手を回す。
「私達は今のうちに遠くへ逃げます」
「それが賢明だろうな。まぁ、流石に向こうも今日は手を出してこないだろう。精々逃げ延びることだ」
「そうさせてもらいます。では、これを」
節沢が芦長に差し出したのは、依頼料の入った茶封筒。中身を覗いた芦長は「確かに受け取った」とそれを内ポケットへ忍び込ませた。
「お世話になりました。それでは、失礼します」
「ちっ、ちょっと待ってくれ!」
諦めが付かない大介は、反射的に二人を呼び止めた。だが、かける言葉が出てこない。
探偵の言うことが間違いではないことは理解している。自分の人生を蔑ろにしてまで二人を守り抜きたいかと問われると、首を縦に振れない自分がいる。
最近色鮮やかになったばかりの大介の人生。日陰虫の頃の人生ならばいくらでも投げ売ることができたであろうが、今はそういうわけにはいかないのだ。
「そんな顔しないで」
様々な感情が渦巻いている大介に、優花が優しく声をかける。
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