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「大介君はきちんと戦ってくれた。私達なら大丈夫。二人で必ず逃げ切って見せる。アナタは桜ランクの誇りよ。その力で、これからも周りの人達を守ってあげて」
大介は答えられない。素直に首を縦には振れない。そうしてる間にも二人の背中は遠退いていき、ついには見えなくなってしまった。
「報酬だ」
芦長の声に振り返ると、USBメモリが投げ渡された。ここで大介は、コレを奪還するために仕事を引き受けていたことを思い出す。
「それと、これはサービスだ」
茶封筒から一万円札を二枚引き抜き差し出す。大介は、芦長のその手を弾いた。
「金はいらない」
「金欲がないのは立派なことだ」
落ちた二万円を封筒に戻すと、芦長は踵を返し去っていった。その背中へ向けて暴言の一つでも吐いてやりたかったが、言葉がどうしても見つからない。
何故ならば、彼は正しいから。間違っているのは自分だから。
煮え切らない思いが渦巻き続ける。しばらくの間大介はそこで立ち尽くしていたが、やがて帰路を辿り始めた。
◇
『大丈夫か?』
幼い少年が、そう書かれたメモ帳をアキラへ向ける。「問題ない」と答えると、彼女は新の頭を優しく撫でた。
二人が今いるのは、ここ数日根城にしているビジネスホテルの一室。大介との戦闘で負った傷の応急処置を終えたアキラは、胸にサラシを巻き直す。
『今日は休め』と、新が書く。
「私なら心配ない。新が言技の使いすぎで疲れていないのなら、今からでももう一度戦える」
その鋭い目に迷いはなく、また恐れもない。新はアキラに対し何かを書こうとしたが、途中で手を止めてしまった。
「言いたいことがあるなら書け」
新は戸惑いがちに頷くと、再びペンを走らせた。
『あの燃える奴はヤバい。一度策を練り直すべきだ』
「私が負けるとでも言うのか?」
『違う。俺はアキラを信じてる』新はページを千切り、続く言葉を連ねる。『でも、アキラの体は傷だらけじゃないか。女の子なのに』
確かに新の指摘通りであった。アキラの無駄のない引き締まった体に刻まれているのは、過去に負った古傷の数々。
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