―其ノ参― #2

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―其ノ参― #2

『負けんなよアキラ』 「無論だ。私が負けるものか」  その返答に納得したようで、新は無表情な顔のままそっと姿を消した。  残された二人が対峙する。西洋甲冑改めアキラは右手を前に差し出すと、槍を出現させてそれを構えた。向けられた敵意に反応し、二人の間にKEEP OUTのテープが展開する。 「では、参るッ!」  地を蹴り駆け出す相手に合わせ、大介も駆け出した。近づくに連れ、黄色いテープは赤いDANGERのテープへと変わっていく。大介は臆することなく、それを体全身で突き破った。  ――発現。言技“飛んで火に入る夏の虫”。複言“心頭滅却すれば火もまた涼し”。  数多の赤いテープを焼き払い、大介は紅蓮の炎を纏いアキラへと突進した。敵も怯むことなく槍を放ってくる。  大介は言技の副作用で、近い未来危険になる箇所をテープにて目視することができる。現状のような戦いの最中においては、相手が何処を狙ってくるのかを赤いテープにて目視することができるのだ。  槍の先から伸びるテープは、大介の左胸と繋がっている。狙いは心臓への一撃。確実に殺すつもりである。  伸びてくる槍を体を反転させ回避する。左手で槍を掴んだ大介は、握力のみでそれをへし折ってみせた。  複言“心頭滅却すれば火もまた涼し”の能力のおかげで、大介は並大抵の攻撃では痛みすら感じない。おまけに肉は切れずに耐え、骨は折れずに耐える。故に、人体が普段は制御している筋力のリミッターを解除することができるのである。  武器を失ったアキラは、怯むと思いきやすぐさま剣を出現させて斬りかかってきた。距離を詰めすぎたこともあり、回避が間に合わず大介は両腕で斬撃を受ける。服の袖はぱっくりと斬られてしまったが、その奥の皮膚には引っかき傷すらついていない。  最初の手合わせにて相手の力量をある程度体感した両者は、互いに一旦距離を取った。 「なるほどな。並の攻撃では傷どころか痛みすら感じないというわけか」 「そういうことだ。諦めるか?」 「馬鹿を言うな」アキラは剣を捨てる。「まだ手は腐るほどある」  アキラの言技“竪を被り鋭を執る”は、武装の言技である。銃火器等は出せないことからランクは“竹ノ中”止まりであるが、そのバリエーションは実に豊かだ。
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