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―其ノ肆― #2
なので大介は、天吾の役割は情報収集やそういったものだと思い込んでいた。しかし、立ちはだかる天吾は自らが戦おうとしているように見える。
当然、銃や剣など言技がなくとも戦う術はある。だが、天吾には武装する気配がない。大介の目にKEEP OUTが見えないことから言っても、現時点で武器を所有していないのは明らかであった。
育のように武道を学んでいるのだろうか。仮にそうだとしても、大介に適わないことは天吾もわかっているはずである。にも関わらず、その表情は余裕そのもの。その自信が、大介には不気味に感じてならない。
「がっはァ!」
ここで節沢が“薔薇に棘あり”の呪縛から解き放たれる。どうやら、優花が意識を取り戻したようだ。穴だらけであった節沢の体は、見る見るうちに元に戻っていく。
その光景に大介は目を見開く。棘を無効化する能力を有していることは推測していたが、その能力を目の当たりにするのはこれが初めてであった。
「いやぁ、見事なまでの不死っぷりだね。見せ物にしたら一儲けできそうだ」
「きっ、気をつけろ瀬野君! そいつは爆弾を使う!」
「爆弾?」
確かに節沢へ探偵が仕込んだ盗聴器からは、爆発音も聞こえた。だが、天吾が爆弾を所有しているのなら大介の目が反応するはずである。しかし黄色いテープはその切れ端すら確認できない。
では、爆弾は節沢へ使った物のみであったと考えるのが自然である。ならば何故彼は丸腰であるにも関わらずここまで強気なのか。ただ単にハッタリを噛ましているだけと断定してよいのだろうか。
――少女が現れたのは、そんな思考が渦巻いている最中であった。
「ケンちゃん!? しっかりしてケンちゃん!」
倒れている拳に駆け寄り、名を呼ぶのは赤髪の少女。その後に続いて、女の子がもう二人現れる。駅前のメイド喫茶キャットウォークで告白作戦を練っていたきずな、照子、育の三人である。
「何でお前らがここにいんだよ!?」と、理将。
「それはこっちの台詞だよ! 私達は駅で爆発音が聞こえるなり警察の人に逃げるよう言われたんだけど、逃げる最中にケンちゃんの言技発現の音が聞こえたから……」
「それできずなさんが行くって聞かないから、警察の目を盗んで来てみたのよ。私としては不本意だったんだけど、きずなさんを一人で行かせるわけにもいかないでしょう?」
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