第1話

4/5
前へ
/5ページ
次へ
依頼人佐竹美保の件はあくまでも浮気調査を前面に出し、「浮気はないからご主人を信じて」と説得するより他ない。亜津子はそれで押し通すことにしていた。 事実、なかったのである。佐竹亮の身辺調査をはじめてから亜津子の回りで不穏な動きが感じられていたが依頼人佐竹美保にも身の危険がないか秘かにそれとなく確認することにしていた。が、それは事務所の職員には内々にしていたのである。知らない方が良いこともある。知ることにより身に危険を及ぼしてはならないという配慮ではあったが、三浦豊については彼の素性を詳しく知るまでは隠す必要があるのだ。 亜津子は佐竹亮の報告は事務所ではなく場所を移すことにして事務所の誰にも気付かれないよう秘密裏に行うことにした。「依頼人の方は事務所には何時のお約束ですか?」と神田裕美が訊ねた。「明日、外でお会いしますから、今日中に書類の用意御願いね」亜津子は何気ない素振りで応えた。 佐竹亮が「スパイ」ではないかという疑惑は次第に膨らんでいった。佐竹亮が帰宅途中に会う人物に亜津子は疑いを抱きはじめていた。疑いが確信へと変っていったのは亜津子のよく知る人物と会っていたことだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加