第1話

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佐竹美保は時間通りにやって来た。 亜津子は駅の近くにある静かな地下の喫茶店に案内した。クラシック音楽の流れる喫茶店は今は少なくなったと思いながら「私は珈琲ですけれど何になさいますか?」と佐竹美保に訊ねた。「私も珈琲御願いします。」亜津子は鞄から茶封筒を取り出すと、写真と調査報告書を手渡した。 「ご主人は浮気はされておりません。」「ひどくお疲れのご様子でしたが、その後何か変ったことはございましたか?」と打診した。「いいえ、特には・・・」佐竹美保は写真を眺めていた。「ご存じの方ですか?」「いいえ」佐竹美保は報告書にも目を通し、終わるのを亜津子は待った。 「ご質問ございましたらどうぞ」「いいえ」佐竹美保は写真と書類を茶封筒に入れなおしていた。「ありがとうございました。御蔭さまで安心致しました。これからは主人の健康に気を遣います。」佐竹美保は深々と頭を下げた。「お写真と書類はこちらで保管させていただきますのでお入用の際はご連絡ください。」佐竹美保は怪訝そうな面持で頷いた。(何時かきっと必要になるかも知れない)と亜津子は心の中で呟いた。佐竹美保の安堵した様子を確認して、この件は落着したのである。いや、させたのであった。 地下の喫茶店に入った時のように一緒に出て、駅で見送り電車に乗るのを確かめると亜津子は駅を後にし、再び別の喫茶店に入って行った。
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