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「はい? なんでしょうか?」
ピタリ、足を止めて顔だけ俺に向ける眼鏡メイド。
瞳と瞳が重なる。
「偉そうに説教するのは勝手だけどな、一体誰の努力が無駄だってんだよ?」
「今の話を聞いていなかったのですか? そこの勘違い女のことです」
「そうかよ。けどな──他人に否定されていい努力なんてこの世にはひとつもねぇんだよ」
俺が眼鏡メイドに怒りを込めて放つと、美月は、「……蒼介」とか細い声を漏らした。
「お前の言う通り、確かに美月はやり過ぎなところがある。他人に誤解されやすいところがある。
だけど、こいつはいつもいつも必死なんだ。周りが見えなくなるくらい無我夢中なんだよ。そんな奴の努力を無駄呼ばわりするのは、この俺が絶対に許さねー」
我ながらクサイ台詞だと思ったが、気持ちに嘘はない。
俺は少なくとも、今の美月を認めている。
だからこそ、改めて眼鏡メイドにハッキリと宣戦布告した。
「二階堂にも言っとけ。この生徒会選挙──勝つのはうちの美月だってな!」
俺が高らかに告げると、眼鏡メイド静かに部室の扉へ歩き出して、
「童貞の分際で大きな口を叩かないでください」
「な、なんだとこの野郎!」
「──しかし、私も少しだけ選挙の行く末が楽しみになりました。あくまでも敵同士ですが、お互いに全力を尽くしましょう」
バタン。
眼鏡メイドはスカートのフリルを揺らしながら、扉を閉めて俺たちの前から姿を消した。
お互いに全力を尽くしましょう、か。
どうやら俺の宣戦布告を相手も本気で受け取ったみたいだな。
「美月」
俺は眼鏡メイドの捨てたチラシを拾って美月に手渡す。
「生徒会選挙、絶対に勝つぞ」
美月は一瞬大きく瞳を開いて、ほんのりと頬を赤く染める。
「……あ、あんたに言われなくてもわかってるわよ。で、でも……さっきは私のことを庇ってくれて……あ、ありがと」
照れ臭そうに俺を見上げて、美月はチラシをきゅっと抱きしめた。
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