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この【ギャラリー喫茶きまぐれ】の店内の隣室には密室が設置されていた。それを知るのは常連客のごく一部であった。真美ちゃんが知ったのもつい最近のことである。そこには絵画や陶器、建築等、美術館等、世界の風景、日本の風景等のずっしりと重い蔵書がずらりと並んでいた。常連客は隣の図書館らしき店主のお部屋に寄って美術書を楽しんでもいたのであった。
ある日真美ちゃんは佐野と林洋子が歩いているのを見かけてしまった。夫々が別々の時間に別々の場所に座っていた常連客である。「二人は知り合いだったのね」真美ちゃんは佐野と林洋子が寄り添う姿を目で追いながら呟いた。二人がお店に来なくなったのはその翌日からである。もともと二人は知り合いだったのかしら?敢えて時間帯をずらしいていたのか?それとも仕事の都合で別々に来ていたのであろうか?あれこれ考えてはいた真美ちゃんだったが、それも不謹慎に思えて考えるのを止めていた。そのうちまた、ひょっこり来店するであろうことを願っていた。
「やあ 暫くだね」佐野の笑顔が真美ちゃんの心を霞めた。店主は最近佐野さんが来ないわね・・・とは訊いて来なかった。何故だろう・・・二人が来なくなったのは同時期なのに・・・真美ちゃんは「佐野さんも最近お見えになりませんね」と続けて訊ねた。
「そうね・・・」店主は新しく壁に飾った油絵を眺めながら独り言のように呟いていた。
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