愛しく無口な人達

第1話

【ギャラリー喫茶きまぐれ】の壁面には油絵を設置していた。客席は少し離し、見やすいように工夫が施されていた。イベントがないときは常設の油絵を壁面に棚には陶器が置かれていた。店主は作品に話しかけていたのだった。油絵の下にはby sanoとサインがあった。「あっ・・・」真美ちゃんは今まで気がつかなかったけれどあの絵は佐野さんの描いた絵なのだろうか。あの絵は・・・同名の佐野さんだとばかり思って気にも留めなかったけれど、今、自然にふとあの佐野ではないかと思ったのだった。

絵の題名は「沈黙」美しい女性の瞳が何かを訴えているようにじっとこちらを見ている。凝視しているような人物像だった。店主はあの絵の女性に何を話していたのだろう。あの絵は誰の人物像なのだろうか？真美ちゃんは漠然と大いなる興味を抱き始めていた。店内には「ショパンへのオマージュ」が流れていた。

そのうちに分かるかもしれない。みんな物静かなお客様達だけれど時にはあの土井老婦人のように太陽のような方もおられる。真美ちゃんは老婦人からコンサートに誘われていたのを思い出したのだった。