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「浩」
ちょうど靴を履き終わったときだ。
玄関からすぐの、二階へ続く階段の上から姉がこっちを見下ろしていた。
髪はぼさぼさで、目も半分ほどしか開いていない。
今起きたところなのだろう。
「おはよう。ちょっと出掛けてくる」
できるだけ冷たい口調にならないように努めて言う。
別に姉と仲が悪いわけでもないが、何となく居心地の悪さを感じていた。
リュックを肩にかけ、ドアノブに手を伸ばす。
「ちょっと待って」
姉の声に伸ばしかけた手を引っ込める。
階段を降りる足音が背中ごしに聞こえ、振り返るとちょうど一階まで姉が降りてきたところだった。
「お父さんとお母さんは?」
「二人とも仕事だよ」
「そう。あんたはどこ行くの?」
そっと、姉に気づかれないように長い息を吐き出した。
「図書館。受験生だし、勉強しないと」
「そっか。頑張ってね。いってらっしゃい」
「ん。いってきます」
短いやり取りを終え、僕は家を後にした。
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