2 蝉が鳴く頃

2/17
前へ
/27ページ
次へ
「浩」 ちょうど靴を履き終わったときだ。 玄関からすぐの、二階へ続く階段の上から姉がこっちを見下ろしていた。 髪はぼさぼさで、目も半分ほどしか開いていない。 今起きたところなのだろう。 「おはよう。ちょっと出掛けてくる」 できるだけ冷たい口調にならないように努めて言う。 別に姉と仲が悪いわけでもないが、何となく居心地の悪さを感じていた。 リュックを肩にかけ、ドアノブに手を伸ばす。 「ちょっと待って」 姉の声に伸ばしかけた手を引っ込める。 階段を降りる足音が背中ごしに聞こえ、振り返るとちょうど一階まで姉が降りてきたところだった。 「お父さんとお母さんは?」 「二人とも仕事だよ」 「そう。あんたはどこ行くの?」 そっと、姉に気づかれないように長い息を吐き出した。 「図書館。受験生だし、勉強しないと」 「そっか。頑張ってね。いってらっしゃい」 「ん。いってきます」 短いやり取りを終え、僕は家を後にした。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加