2 蝉が鳴く頃

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姉は小さいころから活発な子どもだった。 よく遊んで、よく食べて、よく寝る。まるで男の子のようで、おとなしい僕とは対照的だった。 小学生のころ、そんな僕を姉はよく連れ出し、姉の友達の仲間に入れたり、あるいは二人で駄菓子屋に行ったりしていた。 中学に上がるとバスケを始め、母から聞いた話だとそれなりに活躍もしていたようだ。 そうは言ってもプロを目指すほどかと言われれば、もちろんそんなことはなく、大学ではもうやっていないみたいだ。 遊ぶことが目的だというなにやらよくわからないサークルに入ったらしく、実家に帰ってくる度、どこへ行っただの何をしただのと、いろいろ聞かされた。 そういう活動的なところは大学生になっても変わっていなかった。 そんな姉が去年の春に帰省したときだ、今からだと一年と五ヶ月ほど前だろうか、彼氏が出来たと言ってきた。 名前は鈴木陽平。 姉にとって、それは生まれて初めての恋人で、見ているこっちが恥ずかしくなるほど、嬉し恥ずかしという感じで舞い上がっていた。 二人で撮ったプリクラを携帯に貼っていたりもしていた。 大学生なのだから恋人くらい普通に出来るだろうとも思ったが、そんな姉を見るのは僕にとっても初めてのことで、何とも言えず、正直困惑したのを覚えている。 その春以降は、サークルの活動に加えて陽平さんの話もよくされた。 ただ、姉の話からわかる陽平さんの人柄というのは、優しい、ただそれだけだった。 陽平さんは優しいから私のわがままに付き合ってくれる、陽平さんは優しいから喧嘩もしない、陽平さんは優しいから、陽平さんは優しいから……。 いまいち人物像が見えない陽平さんと、陽平さんに依存気味な姉に、少し気味の悪さと不安もあったが、陽平さんはそもそも会ったこともない人だし、姉も初めての恋人に熱が上がっているのだろうと、それに姉も陽平さんももう大学生なのだからそんなに心配することもないだろうと、そんなふうに軽く考えていた。
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