2 蝉が鳴く頃

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昨日の夜、宣言通り、姉は春休みぶりに帰ってきた。 ただし一人ではない、隣には陽平さんの姿もあった。 去年の春に見たプリクラは小さくてよく見えなかったので、ほとんど初めて陽平さんを見たことになる。 髪は黒で短くも長くもなく、顔立ちは整っていて、物腰のやわらかそうな青年だった。 服装も紺を基調とした地味なもので、よく言えば真面目そう、悪く言えばいたって普通、それが僕の陽平さんに対する第一印象だった。 いや、正しくは特に印象がなかった。 印象がないのが印象的だった、というのが近いかもしれない。 何事だろうか。 姉の表情は固く、いつになく深刻そうである。 それが僕の知っている姉ではなくて、ますます不安になった。 思えば電話で聞く姉の声も深刻そうだった。 それがいつもの姉らしくなく、嫌な予感がしたのだ。 だがその後姉から聞いた言葉は、僕の予想を超えるものだった。
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