2 蝉が鳴く頃

6/17
前へ
/27ページ
次へ
姉と陽平さんは居間に通され、二人が横に並んで座り、テーブルを挟んで父と母が座る形になった。 僕はどうしたものかと思い、四人から少し離れた、それでも話は聞こえる位置のダイニングに腰掛けた。 「それで話って?」 沈黙を破る第一声は、母の声だった。 姉の醸し出す深刻さを母も感じているのだろう、できだけ優しく聞こうとしたようだが、不安そうな声音が隠しきれていない。 父も普段は厳格な父ではなく、よく冗談を言っては自分で大笑いするような父なのだが、この時ばかりは一切の冗談も言わず、真剣な表情をしていた。 再び訪れる沈黙。 固く結ばれた姉の唇が、おもむろに開かれると、 「子どもが出来たの」 僕を含め、その場の誰もが言葉を失った。 子ども? 誰の? 姉の? 目がある一点を見つめたまま動かせなかった。 誰と? 「もしかして……」 僕の声に視線が僕へと集中する。でも、その後を続けることが僕にはできなかった。 「お父さん、お母さん」 その言葉に父と母の目は姉へと戻る。 僕も姉の顔を伺った。 「私、子どもが出来たの」 姉の右手が持ち上がり、 「彼との子どもが」 その手の先に、真剣な表情の陽平さんが座っていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加