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都季は気持ちが逸るあまり、落ちるように座り込んだのだ。勢いよく手をつき、すがりつくような大声をあげて、額を畳にすりつけた。粗野だと思われても仕方無い動作である。
今度は粗相のないように丁寧に礼をしようと、都季は揃えた指先を静かに床につけ、ゆっくりと頭を降ろした。
しかし女将は、表情を変えずこう言った。
「もう一度、やり直しなさい」
「あの、どこが悪い……」
「もう一度」
気迫の利いた声であった。
何も言わないし、何も教示してくれないのだ。しかし、女将の目は、真っ直ぐに都季を睨みつけている。
指先の揃え具合、頭の角度、さては背骨の曲がり具合まで、ありとあらゆる動作を検分されているようで、体は自然さを欠いた動きしか出来なくなった。
ああ、きっと雇ってもらえない。
都季はそう思った。
高級娼館では下人にまで作法が求められるのか。と、望みを捨てた時だった。
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