第2話

18/40
前へ
/40ページ
次へ
都季は気持ちが逸るあまり、落ちるように座り込んだのだ。勢いよく手をつき、すがりつくような大声をあげて、額を畳にすりつけた。粗野だと思われても仕方無い動作である。 今度は粗相のないように丁寧に礼をしようと、都季は揃えた指先を静かに床につけ、ゆっくりと頭を降ろした。 しかし女将は、表情を変えずこう言った。 「もう一度、やり直しなさい」 「あの、どこが悪い……」 「もう一度」 気迫の利いた声であった。 何も言わないし、何も教示してくれないのだ。しかし、女将の目は、真っ直ぐに都季を睨みつけている。 指先の揃え具合、頭の角度、さては背骨の曲がり具合まで、ありとあらゆる動作を検分されているようで、体は自然さを欠いた動きしか出来なくなった。 ああ、きっと雇ってもらえない。 都季はそう思った。 高級娼館では下人にまで作法が求められるのか。と、望みを捨てた時だった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加