第2話

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「一番右にある部屋が、妙児さんの部屋だよ」 シノは、露地から下舎を指差した。 階(きざはし)のついた廻廊に、一室から漏れた障子越しの明かりが落ちている。 瓦葺の屋根は、白み始めた空の色を受け、微かに輝いていた。 *** 「あの、遅くなってすみません。 都季です」 廊下から声をかけると、障子に映った人影が僅かに動いた。 「入りなさい」 都季は「失礼します」と口にしてから部屋に入った。 妙児は文机(ふづくえ)に向かい、書物を開いていた。 脇に置かれた燭台の灯が、都季と共に入り込んだ風を受けて、じじっと明く燃え上がった。 侘しい部屋だな、と都季は思った。 風呂場で妙児を見た時の、あの鷹揚でいて気品の備わった仕草。 あれは、心に余裕を持った人間の動きだ、と都季は中所長の屋敷を訪れた上流層の人々の所作を思い出していた。
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