第2話

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都季は咄嗟に両手をつき、頭をさげた。 さげた後で、しまった、と思った。 別のことを考えていたせいで気が回らなかったが、この礼には何か問題があるのだ。 「もういい。頭を上げなさい。 女将様の仰っていた理由が分かりましたから」 「あの、理由って何ですか? 私の礼に粗相があったことは分かります。でも何が悪いのか分かりません」 都季は一度顔を上げたが、また頭をさげた。 「お願いします。私には行くところがないんです。ここで働きたいんです」 「お前は――」 都季は、恐る恐る顔を上げた。 「礼の仕方をどこで覚えましたか」 妙児の口調は穏やかだが、その眼光には得も言われぬ鋭さがある。 下品――。 都季は、そう言われた気がした。 「どこで、と言われても……」 「では問いを変えます。 お前は誰にそうやって頭をさげましたか」 誰に、の部分が強調されていた。
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