第2話

8/40
前へ
/40ページ
次へ
それは平行積みにされた壁石が美しく磨かれており、木造の欄干には紅の塗料が塗られていた。大層立派で、華やかだった。 幼心にも、あの向こうは楽しそうだ、と別世界への興味心をくすぐられたものである。 その石橋を初めて渡るのだ、と緊張に似た高揚心がいくばくかはあった。 拍子抜けとは、正にこのことであろう。 いや、しかし運が良かったのだ。 優しい先生のお陰で、こうして仕事を紹介してもらえた。と都季は半ば強引に現実を見つめて気を取り直したのだが、事実を言えば、彼がそうしたのは自分の為である。 彼は雪美館の女将から、ちゃっかり都季の治療費を受け取っていたのだ。 都季がそれを知ったのは、一月後の給金日であった。 他の下人らは給金を貰っているのに、都季は「お前の給金は借金にあてた」と言われ貰えなかったのだ。 金を作らなければならないのにどうすればいいのか、と一時は頭を抱えることになるのだが、しかしこの時は何も知らず、ひたすら医者に感謝した。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加