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都季が雪美館で因縁を持つ相手は多くいたが、中でも縁が一番濃かったのは都季より三つ年上の綾(あや)という娘だった。
綾は後々、娼妓(しょうぎ)になることが決定していた娘で、都季が雪美館の下女となった時、綾は娼妓見習いとして敷地内の塾で生活していた。
ここの遊廓一帯には、美と芸と学を兼ね備えた者だけが名乗ることの出来る“上級女(じょうきゅうにょ)”という娼妓が存在しており、上級女を買うには大金が必要であった。
庶民が言うには「おらの一月分の稼ぎが一晩で消えるんだべ」だそうである。
高級娼館と名高い雪美館は多くの上級女を産み出すべく、利発そうで容姿の優れた娘を、七歳から早くて六年、遅くて九年の月日をかけて塾で教育した。その教育期間中の娘らが娼妓見習いと呼ばれていたのである。
綾との因縁が始まるきっかけは、ほんの些細なことであった。
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